トレーナーにメッセージで辞退の連絡をした。
『Oトレーナーに事務所に呼ばれてプロテストを受けるのは早いと言われました。話を聞いていて確かにな、と思ってしまった自分がいたので今回は辞退しようと思います。』
内容はたぶんこんな感じだったと思う。
その日は担当のTトレーナーからは返信は来なかった。
日が明けたが、翌日になってもTトレーナーからの連絡は来ない。
僕はいつも通り仕事を終えたらジムへ向かう。
その日はいつもならTトレーナーが来る日だったが、ジムにその姿はなかった。
いつもいるはずのTさんがいない。
自分の中でOトレーナーに促されて判断したことについての迷いが大きくなっていく。
やっぱり本質的には納得してないのだろう。
自分のことを見ていてくれた人に対して辞退をするという弱気なことを述べてしまい後悔が膨らみ、顔は青ざめ、練習に集中できなかった。
そんな時1人のトレーナーが目に入った。
その人の名前はKさん。
元暫定チャンピオンで週に2回ほどジムで指導しにきてくれる若いトレーナーだ。
思えばこのジムに入会した時から面倒を見てもらってたし、考え方や接し方が好きで、本当に信頼していた。
「すみません、ちょっとお話いいですか?」
Kさんならどう考えるだろうか。
どうするべきか。
自信はないが、自分の中でもがいているからこそ、信頼してる人の声が聞きたかった。
Kさんに昨日あったことを話した。
それを聞き、Kさんは迷いなく言った。
「自分はどうしたいんですか?」
ものすごいストレートな返答、且つ、確信をつくような質問に感じた。
なぜなら、自分はKさんに受ける受けないの判断をしてもらい、自分の決断を正当化して納得したかったのかもしれないからである。
自分の気持ちは?
ずっとOトレーナーに言われたことに納得ができなかったのは、自分の中では答えがでてるから?
「プロテスト受けたいです。しかし、Oトレーナーに言われて、100%受かる自信がなく、何も言えませんでした。どうしたらいいのかわかりません」
正直な気持ちを伝えた。
その自分の発言に対してKさんは話す
「そんな気持ちじゃ、プロテスト受けるためにサポートしてくれてるTさんだって何も言えませんよ。」
Kさんは続ける
「いくらTさんが許可だしても自分が受けないっていわれたら、反対してくる人に押されて受けさせられないですよ。担当のトレーナーは誰ですか?Tさんですよね?そしたら担当のトレーナーが許可出してるんだからいいんですよ。なのに担当じゃないトレーナーに少し言われてすぐに意見を変えるようではTさんも受けさせようがないです。」
Kさんの言葉はものすごい勢いで僕の胸に突き刺さった。
今まで1番近くで見てくれているTトレーナー。
自分はその人の気持ちをそこまで考えてなかった。
ただその場で詰められて、自信がないのを言い訳に、周りからの圧力が怖いから逃げていた。
そう思った。
「自分がやりたいんですよね?」
Kさんが再度問いかける。
「はい」
僕は頷いた
「なら受ければいいと思います。確かに受ける判断をしたら、白い目で見られることもあるかもしれませんよ。でも自分がやりたいんですよね?なら受ければいいんです。自分もチャンピオンになるって練習していたときは、周りから、『無理だ』とか非難する声を散々言われてきました。結局、チャンピオンになれませんでしたが、自分は一切後悔してないです。プロテスト受かるかどうかは分かりませんよ。でもいいんです。落ちてもそれが経験になるんです。次に活かせるんです。」
Kさんの言葉を聴いて自然と涙が出た。
「ありがとうございます。プロテスト受けます。Tさんにもそう伝えます」
もう僕の目に一切の迷いはなかった。